私好みの新刊 20193

『うみのなかがみえるよ』 

荒川暢/さく ちいさなかがくのとも20188月 福音館書店

 この400円足らずの小さな本に、科学読み物の原点がちりばめられている。まれにみる素敵

な本である。科学読み物はたんに自然界の描写だけあればいいのではない。自然界の描写を主

にした本は、それはそれで読者の知識欲を満足させられるが、それはあくまで自然の本である。

感動的に自然に触れる体験や、発明発見のドラマ、そして未知の自然界を探求していく楽しさ、

それらを子どもたちに伝える本が科学読み物といえよう。

 この『うみのなかがみえるよ』は、おとうさんと磯浜に来たぼくが、磯浜でつぎつぎと磯の

生き物をみつけていく過程が描かれている。まずは、「なにか いきものが いるかな」とケー

スを持って浜辺のタイドプールへ。波がゆらゆらして海の底がよく見えないでいると・・・

ぽちゃんとケースを水面に落としてしまう。ここで新発見、「あれっ、うみのなかが よく 

みえる。・・・うみに まどが できたみたい」。海の底がくっきり見える。ここからぼくの

海の探検が始まる。「いしのしたに なにか みつけたよ。これ、いきているのかな」。岩のか

げをのぞくと「かいがらが いっぱいだ。わっ、もぞもぞ、うごきだしたぞ」。「あっちの 

きいろいものは なんだろう。よーし」。思わずぼくは、海の底で次々と展開する異次元の世

界のとりこになってしまう。ついに「さかなだ!」「かにが でてきた!」「うわぁ、こんなに 

いっぱい!」「からっぽの ケースが すいぞくかんになったよ!」と新発見の喜びに満ちた顔で

水槽の下をのぞくぼく。読者にもぼくの満足感が伝わってくる。

 この本の著者荒川さんは別刷りの「おりこみふろく」で、この本を書くためにプラスチック

ケースを持って磯を訪れた時の感動を書いている。「浅い海底に届く光はやさしく揺らいで、

まるで万華鏡を覗いているようでした」と。小さな子どもたちに読んでもらいたい一冊である。

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40億年、いのちの旅』 伊藤明夫/著  岩波ジュニア新書  岩波書店 

 地球誕生からマグマオーシャンの時期が過ぎ、40億年前には原始細胞が誕生した。それか

ら、地球は何度もの激変状態を経てきたにもかかわらず、ずっと今に至るまで「命の旅」は続

いてきた。その全貌がわかりやすくまとめられている。

 はじめに「いのちとは?」という難しい問いに迫っている。「いのちとは」と、改めて考えると

意外と言葉に詰まる。自己増殖能、物質代謝能などなど3つを持つものを言うとのこと、過去

の哲学者たちの見解も交えて「いのち」の深さを示している。次に生き物の多様性と普遍性に

ふれる。この地球は多くの種を作り命をはぐくむと同時に大量絶滅も繰り返してきた。これま

でに地球に現れた生き物の99%が絶滅したと書かれている。最初の命の誕生については諸説あ

りだが、ここでは海底で有機化合物がつくられ原始細胞が出現したとされる。化学反応の再現

も交えて単細胞から多細胞へ変革していく過程がくわしく書かれている。宇宙から有機物がや

ってきたという説もあるのだが。
 続いて、化石から見る人の旅が書かれている。化石といって
も今はDNA・ゲノムといった
「分子化石」まで調べられる。そこまで詳細に見ていくと、霊
長類間の進化の関係も詳細に浮
かび上がってくる。ヒトの祖先はチンパンジーに近いとか。最
後に著者はヒト族の現状と未来
について語る。
ips細胞を生かした遺伝子組みかえ技術など難病を防ぐ技術にとどまるといいの
だが、生殖細胞や胚に適用するなど「いのち」の旅に影響与
える研究も進みつつある。こうな
ると倫理的な問題に発展してくる。命の旅のこれからはどの
ようになっていくのだろうか。

今は有史以来の大量絶滅期だとか。しかもその原因はヒトの活動にあるという。何百万年先、

ヒトという種が絶滅したあとには今のモグラかカラスが天下を取るのだろうか。大きな「夢 ?

物語」である。                      2018,08    860

 

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